”簡単な症例なんてひとつもない獵”この言葉は、私が若い頃、アメリカ人の矯正医アレキサンダー先生から聞いた言葉です。そのとき、私は”ふーーん。そうなの。”ぐらいにしか思っていなかったのですが、矯正臨床28年が過ぎた今は、”その通り”とつくづく思うのです。
今日も患者さんとお話ししていたのですが、”簡単に治せますよ。”と言われるとそちらに惹かれるとのことでした。”なるほど、そうなんだろうなぁ。。”って思います。私も若い頃は、”歯を押すか引くかすればいいんだから、矯正は簡単獵”なんて、とんでもないことを思っていましたが、今は、矯正治療の奥深さを感じる毎日であり、こんな症例は、こういう点とああいう点に気をつけないと。。。簡単そうに見えて、歯を安易に抜歯するとエライ目に合うんだよなぁ。。なんて、初診相談の時には、頭をフル回転させて、あらゆるリスクをリストアップして、それらをふまえながら、ご説明しています。
そして、顔の横からと前からのレントゲン写真、歯や顎関節のレントゲン写真と模型、虫歯になりやすさや歯茎の状態、舌や口唇の動きなど、すべてを診査したうえで、最も適した治療方針を選択します。歯科矯正には、その能力が問われるのです。
最近、”簡単”とか”早い”とか、、、そう言った宣伝文句が流行っているようですが、矯正治療開始時には、セカンド、サードオピニオンを聞いて、慎重にスタートしてほしいと思っています
タグ: 治療
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There is no easy case!
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医療再生
久しぶりに重ーーい内容。朝日新聞のあしたを考えるというコーナーに、医療再生が取り上げられ、英国の改革の例が紹介されていた。一時期は医療崩壊に直面していた英国が、今再建を果たしているそうだ。
英政府は病院の質や患者満足度などを評価する第三者機関「保健医療委員会」を立ち上げたとのことである。英国のシステムの詳細はわからないが、広告の色合いが強く信頼性の低いインターネットからの情報やランキング本で、患者さんが翻弄されている日本でも、きちっとした評価が行われて欲しいと思う。アメリカ人で日本に住む友人が、”日本は優秀な医師をみつけるのが難しいシステムになっている。”と言っていた。ドイツで目の手術を受けた友人は、”ドイツだったから、優秀な医師にめぐり合うことが簡単にできた。日本だったら、たいへんだったと思う。”と言っていた。それぞれの国の医療体制には長所と短所があって、いちがいにどこがいいとは言えないだろうが、日本でも安心して医療が受けられる環境が、早く整備して欲しいと思う。
矯正治療の分野でも、いろいろと問題が山積している。専門医制度も3つの学会の争いが原因で、公にはスタートできない状況が長く続いている。そのために患者さんは、安心して治療してもらえる矯正歯科をみつけにくい状況になっているのが残念だ。早く解決して、正しい矯正治療を受けられる環境が整備されることを願うばかりだ。 -
青空中抜き研究会
水曜、木曜の2日間、鹿児島に行ってきます。青空中抜き研究会のミーティングに出席してきます
詳しくは、ホームページwww.aozora-nakanuki.com/infomation.html
をご参照いただけるありがたいのですが、以前、私たちは日本矯正歯科学会の専門医制度準備委員会のメンバーでした。専門医制度を立ち上げるにあたって、いろいろと討論を重ねている間に、矯正界の問題点や今後の課題が見えてきて、委員会解散後も、いっしょに活動したいね。というお話になりました。今は鹿児島大学名誉教授となっておられる伊藤先生をボスとして、6人の気の合う仲間どうし、楽しく活動しています。それぞれ仕事の担当の得意分野があって、いつからか、自分達を青空シックスと呼ぶようになりました。
青空塾という若い先生といっしょに研鑽を積む勉強会を開いたり、海外の先生との交流を深めたり、各医院でのデータを持ち寄って、矯正治療におけるエビデンスを追求しようとしたり、いろいろな方面からがんばっています。
何かとたいへんなのですが、青空の仲間といっしょだとなんでもがんばれてしまう私です。梅雨空が続いていますが、気持ちは青空で、2日間がんばってきますね。 -
近づく世界禁煙デー
しばらくご無沙汰でした。日曜日のテニスで軽い肉離れを起こしてしまいました。人間って、どこか調子が悪いと、テンションが下がりますね。(私だけ令)でも、もう大丈夫です獵
5月31日世界禁煙デーが近づいてきました。診療所にポスターを貼りました。”喫煙は薬で治せる病気だよ”というメッセージです。このポスターを見て”お薬で治せるんですか?実は、主人が。。”って相談してくださるお母さんもおられます。
昨日の矯正相談のSちゃんのお父さんのポロシャツのポケットから見えているタバコが気になったので、ちょっといいですか?ってお話してみました。ご両親ともに吸っておられるとのことでした。
1)タバコには殺鼠剤、殺虫剤、カドミウム、ダイオキシンなどなど、聞くに恐ろしい毒がいっぱい入っていること
2)普通、毒が入っていることがわかったら、毒入りのお水は飲まないだろうし、中国ぎょうざもやめるだろうに、タバコだけはやめられないのは、ニコンチンの依存作用のためであること
3)お薬を使えば、そのニコチンの作用を抑えることができること
4)副流煙の方が毒が強くて、子ども達への害が心配であること。また、親が吸っていると子どもの方が、早くから吸い始めやすいこと
5)タバコをやめれば、お子さんの矯正治療費を払ってもおつりが来ること
などなど、お話しました。
お子さんの歯並びを一生懸命心配されているやさしいご両親でした。こんなにあたたかい家庭にタバコが入り込んでいることが許せない獵と、矯正相談と同じぐらい、禁煙相談に力が入ってしまった私でした。なんとなく、禁煙治療を始めてもらえそうな感じがしました。がんばってくださいね -
プロフェショナル辣腕弁護士さん
20日のNHKのプロフェショナルで肝炎患者さんを救う辣腕弁護士さんが紹介されていました。言葉そのものは忘れましたが、”弁護する人の心と自分の心がひとつになるようになって、勝訴できるようになった。昔は負けてばかりだった。”っておっしゃっていました。ふと、矯正も同じだって思いました。
矯正治療も、患者さんの心と医療者の心が、ひとつになったとき、不正咬合に勝てるんだよなぁ。。。って思います。私たちは医療の立場から、治療方針や技術や指導のうえでベストを尽くし、患者さんは歯磨きや装置のたいへんさや、舌や唇の悪い癖との戦いに努力してくださって、その二つが車の両輪のように助け合って始めて、素晴らしい成績に終了できるんだよなぁ。。。って思います
私も若かった頃、自分の技術だけで治せると思い込んでいた頃は、勝率が低かったような気がします。
患者さんの装置を外す瞬間というのは、私は体育会系なので、力を合わせて勝利を勝ち取った瞬間と同じ感動があります。
弁護士さんも同じなんだろうなぁ。。って思いました。
最近は、矯正用インプラントなど、患者さんの協力がなくても治療ができますよ。といううたい文句の器具も出てきていますし、いとも簡単に治せます。といった宣伝も出ていますが、もちろん、それらは治療の助けにはなりますが、どんな装置を使っても、最終的には、患者さんと医療者の心のがひとつにならないと成功しないと思うのです。
明日からも勝利に向かって、患者さんと心をひとつにして力を合わせて、がんばるぞぉ!!!おぉ!!!(ちょっと体育会系すぎ?)
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抜歯・非抜歯の判断(その2)
抜歯・非抜歯の判断の続きです。子どもは、他の条件が非抜歯の適応と判断された場合、比較的、簡単に拡大ができますし、むしろしっかり骨ごと拡大しないといけない場合もありますが、成人の場合は、他の条件が非抜歯に適していても、そう簡単に拡大はできません。骨が固まってしまっていて拡大するのが難しいからです。
前からのレントゲン写真で、歯列が内側に倒れこんでいるような人は、拡大を考えます。ただ、歯の外側の骨や歯茎の厚さが薄い人は、拡大をすると危険です。無理に拡大することによって、歯茎が下がってきたり、外側の骨がなくなってしまったります。コンビームCTという3次元で骨の状況を捉えた像で、歯を支えている歯槽骨に穴が開いていしまっている症例を見たことがあります。
大人の場合で、どうしても拡大が必要な場合は、コルチコトミーと言って、骨の固い部分を切ってから、拡大をすることもあります。
拡大して非抜歯で治さないといけない症例もあれば、非抜歯を求めすぎて、拡大しすぎて、問題が生じてくる症例があります。
順番にブログで抜歯と非抜歯の判断要素について説明を続けようと思いましたが、今日書いていて、やはりブログでは限界がありそうです。
とにかく、抜かないで治せることがファーストチョイスになりますが、抜かないだけが素晴らしいわけではなく、抜いた方がゴールが高くなる場合は、抜歯して治療を行わないといけないし、逆に、抜かないでも治せる症例を抜歯して治すものもちろん良くないし、検査結果をもとに、抜歯、非抜歯のメリットデメリットをよく考えて、相談して、納得して、治療方針を決定するものだということをお伝えして、終わります
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抜歯・非抜歯の判断
今日は、久しぶりにちょっと難しいお話でも、為になるお話。
抜歯して治すとか抜歯しないで治すとか、とても大切なことなのに、患者さんにはよくわからない部分だと思います。ただ拡大して歯を並べれば良いというものではないことを、逆に、こんなにガタガタがひどいので抜くのだろうと思っていても、抜かずに拡大することもあることを、すなわち、目の前の歯のガタガタの程度だけで、矯正専門のドクターは判断しているのではないということを知っておいてほしいと思います。話せば長くなるので、ひとつずつ。
今日は、横顔の矯正専用のレントゲン写真(セファロと言います)結果から
その1:横顔の形の特徴について
簡単に説明すると、横顔が王監督やSMAPの草薙君のようにがっしりとエラがはったお顔立ちの人ならば、非抜歯で治療しようとします。かなりのガタガタでも、拡大することが可能な場合があります。
逆に、徳川時代の終わりの方の将軍さまのように、毎日、柔らかい高貴なお食事ばかりを召し上がっていて、あごの筋肉の発達が悪く、エラのはりがなく、顔の一番下の部分であるおとがい部が後方にあり、アゴナシのような横顔の人(骨格性の開咬と言います。もちろん遺伝的な要素もあります。)は、抜歯の確率が高くなります。無理して拡大すると、さらに横顔の形を悪くし、口元が出て、唇を閉じるのが難しくなり、噛み合わせも安定しにくくなる可能性が高くなります。
その2:前歯の角度について、
上の前歯と、下の前歯の角度が、顔の基準平面に対して、何度であるかの標準値があります。その標準値に対し、治療開始前からどちらに傾斜しているかで、判断します。これは素人の方にも簡単ですよね。すでに、前に出ている人では、拡大すると円周が長くなるので、さらに出てきます。上の歯も、下の歯も前に出すぎて、上と下の歯のなす角度(Inter incisal angleと言います)が、小さくなりすぎていると抜歯の確率が高くなります。時々、拡大されすぎて、口元が出すぎて唇が閉じなくて、やっぱり抜歯の方がいいですね。となってしまうこともありますので、注意してください。
逆に、内側に傾斜している人は、ガタガタの程度が大きくても、むしろ拡大して前に出した方が良い場合もあります。
他にも判断のための要素があります。日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)はその全部を総合的に判断して、抜歯非抜歯のお勧め度を判断します。そして、患者さんとお話をしていく中で、最終的な治療方針を決定します。
明日は、他の判断要素についてこの続きをお話しますね。
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矯正歯科の打率
先日、元阪神タイガースの八木選手のお話を伺いました。「4打席1安打か3打席1安打かの違い、たった1本の違いが、並か一流かの差になる。集中しているかどうかは、結果で判断されるだけのこと、その結果は練習から生まれるもの。」と厳しいプロの世界について語っておられました。なるほど。。。流石。。。
矯正歯科医の並か一流も打率で決まると言えるでしょう。何割の患者さんを、80歳90歳まで安心して過ごせる結果に終われるか。だと思います。矯正の場合、打率が3割では一流とは言えないわけで、やはり9割以上で、初めて一流といえると思います。10割を目指してがんばっていますが、舌や口唇の癖の強い人や、顎関節の問題の大きい人は、難しいものがあります。思わぬ悪条件を伴う場合もありますし、過去には、患者さんとの思い違いで苦い経験をしたこともあります。
医療はどの分野でも、例えば、がん治療や救急医療でも、誰が担当しても助かる症例、逆に誰が担当しても治らない症例、そして、その間に位置する、一流にかかれば治るのに、そうでないと治らない症例があります。
患者さんには、その現実を知っていてほしいと思います。矯正装置がすばらしければ、誰にでも治せるものではないのです。矯正は特に専門性が高いのと、治療の成果がわかるのに時間がかかるので、その評価がとても難しいと思われますが、うわべだけではなく、地域の評判や複数のお友達からの情報を集めて、矯正治療終了時あるいは、終了後何年か後の打率をしっかりと見定めて(これってホント難しいよね!)、矯正治療を開始してほしいと思います
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今日、一番うれしかったこと
小学3年生のときに、将来、手術になるかもしれないようなすごい出っ歯さんだったI君獵第一期治療、観察期間、第二期治療、安定を確認する保定期間とずーーっと続けて、いよいよイノウエ矯正歯科卒業の日になりました今は大学2年生。すっかりりっぱに成長されました。昔の模型や写真を見ながら、いろいろなシーンをなつかしく思い出して、”きれいになった歯を一生大切にしてね。。”ってお話していました。そして、”I君が小さい時の舌や口唇のビデオが、悪いサンプルとしてとてもわかりやすいので、他の患者さんに教えてあげるために使わせてほしいんだけど嫌かしら?”っておそるおそるたずねたところ、”役に立つんだったらいいよ”ってあっさりOKをくれました。なんだか、感慨無量って感じの喜びで、日頃の苦労が吹っ飛びました。I君ありがとう。これからの患者さんのために、大切に使わせていただきますね
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本物の矯正治療
以前のブログに、アメリカは矯正治療の歴史が長いので、アメリカ人のお母さんは、矯正治療のことをよく知っているという話をしましたが、日本の患者さんにも、本物の矯正治療とはどんなものかを早く知ってもらいたいと思っています獵
不正咬合はさまざまな要因から生じていますから、一口に出っ歯や受け口と言っても、どれ一つとして同じ症例はありません。ですから、日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)は、その成り立ちがどうなっているのか、どう治療すべきなのか、詳しい検査を行います
正貌、側貌の評価(お顔の形の評価)、模型分析(歯型をとって、歯のサイズを測ったり、噛み合わせの状況をしっかり把握していきます。)セファロ分析(横顔のレントゲンを撮って、標準の骨格と比較し、受け口でも、上あごが小さいためか、下あごが大きいためか、あごの大きさには問題がなく、歯の角度の問題なのか、を判断していくための分析です。)を行います。正面からのレントゲンでは、左右の非対称がないか調べます。あごの動きの診査、顎関節の状況の把握、舌や口唇の癖のチェックなど、さまざまな情報から、最も適した治療法を探っていきます。同じ出っ歯に見えても、えらがはったタイプとお公家さんのようなあごのタイプの人では、対応が変わります。同じぐらいのガタガタに見えても、骨格のタイプで抜歯・非抜歯の対応が異なります
それが本物の矯正治療の検査、診断、治療方針の決定です。成長発育の様子をしっかり見据えて、治療のタイミングを決定するのも重要です。矯正治療の成否の70%は検査、診断、治療方針の決定にかかっていると言われています
きちんとした本物の矯正治療かどうか、しっかりと確かめてから、治療をスタートしてもらいましょう