抜歯・非抜歯の判断の続きです。子どもは、他の条件が非抜歯の適応と判断された場合、比較的、簡単に拡大ができますし、むしろしっかり骨ごと拡大しないといけない場合もありますが、成人の場合は、他の条件が非抜歯に適していても、そう簡単に拡大はできません。骨が固まってしまっていて拡大するのが難しいからです。
前からのレントゲン写真で、歯列が内側に倒れこんでいるような人は、拡大を考えます。ただ、歯の外側の骨や歯茎の厚さが薄い人は、拡大をすると危険です。無理に拡大することによって、歯茎が下がってきたり、外側の骨がなくなってしまったります。コンビームCTという3次元で骨の状況を捉えた像で、歯を支えている歯槽骨に穴が開いていしまっている症例を見たことがあります。
大人の場合で、どうしても拡大が必要な場合は、コルチコトミーと言って、骨の固い部分を切ってから、拡大をすることもあります。
拡大して非抜歯で治さないといけない症例もあれば、非抜歯を求めすぎて、拡大しすぎて、問題が生じてくる症例があります。
順番にブログで抜歯と非抜歯の判断要素について説明を続けようと思いましたが、今日書いていて、やはりブログでは限界がありそうです。
とにかく、抜かないで治せることがファーストチョイスになりますが、抜かないだけが素晴らしいわけではなく、抜いた方がゴールが高くなる場合は、抜歯して治療を行わないといけないし、逆に、抜かないでも治せる症例を抜歯して治すものもちろん良くないし、検査結果をもとに、抜歯、非抜歯のメリットデメリットをよく考えて、相談して、納得して、治療方針を決定するものだということをお伝えして、終わります
タグ: 歯
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抜歯・非抜歯の判断(その2)
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IT乙女とIT老婆
今日、15年ぶりぐらいに、今や某大学のIT部門の準教授としてご活躍のM先生が、イノウエ矯正歯科に来てくださいました
。Mさんは、私が学位論文の研究のために、京大の研究室に出没していた時代からのお知り合いです。今のイノウエ矯正歯科の予約システムの開発の立役者です
。
なつかしく昔を思い出しながら、飲みました。
”ラットン君(オーストラリアからの留学生)とフォートランのプログラムを眺めながら、カタコトの英語で、ここ、間違ってるよねぇ。。なんて言い合ってたよね。”
”ほら、京大の大型計算機センターには、パンチのテープがあったよねぇ。。”
”僕はその頃を知りません。。。”
””
私って、そんなに古いの?今なら結構IT乙女だったかも令なんて、なつかしく、そして年を感じながら、お話ししてました。
今やITなしでは、世の中を渡れないような感じですよね。私も、今からでも、IT老婆としてがんばらなくちゃと思う今日この頃です。無理無理って
携帯電話にもたついているようじゃ、無理ね
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抜歯・非抜歯の判断
今日は、久しぶりにちょっと難しいお話
でも、為になるお話
。
抜歯して治すとか抜歯しないで治すとか、とても大切なことなのに、患者さんにはよくわからない部分だと思います。ただ拡大して歯を並べれば良いというものではないことを、逆に、こんなにガタガタがひどいので抜くのだろうと思っていても、抜かずに拡大することもある
ことを、すなわち、目の前の歯のガタガタの程度だけで、矯正専門のドクターは判断しているのではない
ということを知っておいてほしいと思います。話せば長くなるので、ひとつずつ。
今日は、横顔の矯正専用のレントゲン写真(セファロと言います)結果から
その1:横顔の形の特徴について
簡単に説明すると、横顔が王監督やSMAPの草薙君のようにがっしりとエラがはったお顔立ちの人ならば、非抜歯で治療しようとします。かなりのガタガタでも、拡大することが可能な場合があります。
逆に、徳川時代の終わりの方の将軍さまのように、毎日、柔らかい高貴なお食事ばかりを召し上がっていて、あごの筋肉の発達が悪く、エラのはりがなく、顔の一番下の部分であるおとがい部が後方にあり、アゴナシのような横顔の人(骨格性の開咬と言います。もちろん遺伝的な要素もあります。)は、抜歯の確率が高くなります。無理して拡大すると、さらに横顔の形を悪くし、口元が出て、唇を閉じるのが難しくなり、噛み合わせも安定しにくくなる可能性が高くなります。
その2:前歯の角度について、
上の前歯と、下の前歯の角度が、顔の基準平面に対して、何度であるかの標準値があります。その標準値に対し、治療開始前からどちらに傾斜しているかで、判断します。これは素人の方にも簡単ですよね。すでに、前に出ている人では、拡大すると円周が長くなるので、さらに出てきます。上の歯も、下の歯も前に出すぎて、上と下の歯のなす角度(Inter incisal angleと言います)が、小さくなりすぎていると抜歯の確率が高くなります。時々、拡大されすぎて、口元が出すぎて唇が閉じなくて、やっぱり抜歯の方がいいですね。となってしまうこともありますので、注意してください。
逆に、内側に傾斜している人は、ガタガタの程度が大きくても、むしろ拡大して前に出した方が良い場合もあります。
他にも判断のための要素があります。日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)はその全部を総合的に判断して、抜歯非抜歯のお勧め度を判断します。そして、患者さんとお話をしていく中で、最終的な治療方針を決定します。
明日は、他の判断要素についてこの続きをお話しますね。
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矯正歯科の打率
先日、元阪神タイガースの八木選手のお話を伺いました
。「4打席1安打か3打席1安打かの違い、たった1本の違いが、並か一流かの差になる。集中しているかどうかは、結果で判断されるだけのこと、その結果は練習から生まれるもの。」と厳しいプロの世界について語っておられました。なるほど。。。流石。。。
矯正歯科医の並か一流も打率で決まると言えるでしょう。何割の患者さんを、80歳90歳まで安心して過ごせる結果に終われるか。だと思います。矯正の場合、打率が3割では一流とは言えないわけで、やはり9割以上で、初めて一流といえると思います。10割を目指してがんばっていますが、舌や口唇の癖の強い人や、顎関節の問題の大きい人は、難しいものがあります。思わぬ悪条件を伴う場合もありますし、過去には、患者さんとの思い違いで苦い経験をしたこともあります。
医療はどの分野でも、例えば、がん治療や救急医療でも、誰が担当しても助かる症例、逆に誰が担当しても治らない症例、そして、その間に位置する、一流にかかれば治るのに、そうでないと治らない症例があります。
患者さんには、その現実を知っていてほしいと思います。矯正装置がすばらしければ、誰にでも治せるものではないのです。矯正は特に専門性が高いのと、治療の成果がわかるのに時間がかかるので、その評価がとても難しいと思われますが、うわべだけではなく、地域の評判や複数のお友達からの情報を集めて、矯正治療終了時あるいは、終了後何年か後の打率をしっかりと見定めて(これってホント難しいよね!)、矯正治療を開始してほしいと思います
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今日、一番うれしかったこと
小学3年生のときに、将来、手術になるかもしれないようなすごい出っ歯さんだったI君獵第一期治療、観察期間、第二期治療、安定を確認する保定期間とずーーっと続けて、いよいよイノウエ矯正歯科卒業の日になりました
今は大学2年生。すっかりりっぱに成長されました。昔の模型や写真を見ながら、いろいろなシーンをなつかしく思い出して、”きれいになった歯を一生大切にしてね。。”ってお話していました
。そして、”I君が小さい時の舌や口唇のビデオが、悪いサンプルとしてとてもわかりやすいので、他の患者さんに教えてあげるために使わせてほしいんだけど嫌かしら?”っておそるおそるたずねたところ、”役に立つんだったらいいよ
”ってあっさりOKをくれました
。なんだか、感慨無量って感じの喜びで、日頃の苦労が吹っ飛びました。I君ありがとう
。これからの患者さんのために、大切に使わせていただきますね
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本物の矯正治療
以前のブログに、アメリカは矯正治療の歴史が長いので、アメリカ人のお母さんは、矯正治療のことをよく知っているという話をしましたが、日本の患者さんにも、本物の矯正治療とはどんなものかを早く知ってもらいたいと思っています獵
不正咬合はさまざまな要因から生じていますから、一口に出っ歯や受け口と言っても、どれ一つとして同じ症例はありません。ですから、日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)は、その成り立ちがどうなっているのか、どう治療すべきなのか、詳しい検査を行います
正貌、側貌の評価(お顔の形の評価)、模型分析(歯型をとって、歯のサイズを測ったり、噛み合わせの状況をしっかり把握していきます。)セファロ分析(横顔のレントゲンを撮って、標準の骨格と比較し、受け口でも、上あごが小さいためか、下あごが大きいためか、あごの大きさには問題がなく、歯の角度の問題なのか、を判断していくための分析です。)を行います。正面からのレントゲンでは、左右の非対称がないか調べます。あごの動きの診査、顎関節の状況の把握、舌や口唇の癖のチェックなど、さまざまな情報から、最も適した治療法を探っていきます。同じ出っ歯に見えても、えらがはったタイプとお公家さんのようなあごのタイプの人では、対応が変わります。同じぐらいのガタガタに見えても、骨格のタイプで抜歯・非抜歯の対応が異なります
それが本物の矯正治療の検査、診断、治療方針の決定です。成長発育の様子をしっかり見据えて、治療のタイミングを決定するのも重要です。矯正治療の成否の70%は検査、診断、治療方針の決定にかかっていると言われています
きちんとした本物の矯正治療かどうか、しっかりと確かめてから、治療をスタートしてもらいましょう
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診療室の人気者
イノウエ矯正歯科には、患者さんに喜んでいただけるような楽しいグッズがたくさんあります
。その中の一つが、マグネット付きのおサルさんです
。黄色の鉄の丸柱のくっつけてあるのですが、患者さんが思い思いに、形を変えてくださいます。写真は、Yちゃんが作ってくれた傑作です
。すごいでしょ。思わず、写真を撮っちゃいました
。他にも、もう少し大きいサルが、階段のロープにぶら下がっていたり。小さな歯が積み木になったり。。娘に”ママの診療所は歯医者さんらしくなくて、いいでしょ。”というと、”幼稚園みたい。”と言われてしまいました。成人の患者さんには、ごめんなさい。でも、たまには、幼稚園の雰囲気も癒しの効果があるような。。。楽しい診療所で、楽しく矯正治療を受けていただきたい。それがイノウエ矯正歯科の願いです
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医療界の広告規制緩和
少し前に、医療界における広告規制緩和がなされたということをご存知ですか?確か、患者さんがもっと多くの情報を自由に得て、医師を選べることを可能にする。ということを目的をしていたのではなかったかと思うのです。私もその当時は、あまり感心もなく、ふーーん。ぐらいのものでした殮。
でも、最近、その弊害が目立ってきています。以前から何度も書いていますが、広告規制緩和により、ビジネスの波が医療界に押し寄せ、まるで、医療が商品のように広告宣伝されるようになっているのです
。矯正も例外ではありません。ネットをフル活用し、HPでは、最先端の治療法を採用しているので、早く、痛みもなく、目立たず、簡単に治してあげられますよ。というようなきらびやかな文言がめだつようになりました
。
私たち専門家は、新しい装置や技術が次々と紹介されているのは知っていますが、それぞれに限界はあり、欠点もあり、そんな夢のような装置など開発されていないことは知っていますし、きちんとした診断力と技術力、経験がないと、きちんとした矯正治療はできないし、新しい装置も使いこなせないことは、わかっているのですが、素人の方には、素晴らしい!と目に映ると思います。
誇大広告に近いと思うのですが、医療界には消費者センターは関与できないそうです。私は、広告規制緩和をしたなら、消費者センターも関与できるようにするべきだと思うのですが。。。。
今のところは、患者さんが賢くなるしかないのです。きらびやかな文言に惑わされることなく、しっかり先生を選んでください。矯正治療は、そんなに底の浅いものではありません。結果が出るのに、時間がかかりますので、気が付くのが遅くなる可能性があります。費用も戻らない可能性もあります。何よりも、大切な歯の健康を損なうことだってあるのです
。このままだと被害者が、そのうちどんどん出てくるのではないかと心配しています
。
きらびやかなHPや、にぎわっている診療所の雰囲気や、やさしいスタッフの応対に惑わされることなく、きちっとした治療を受けられる先生かどうかを自分の目で耳で、しっかり判断してください
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IT音痴
最近のITの進歩は劇的ですよね
実は、私の学位論文の研究テーマの一部には、”歯に力を加えたときに生じる応力に応じて、どう歯が移動するか”をコンピュータ上でシミュレーションする
という手法を取り入れて、京都大学の工学部の堤教授の指導で、研究させていただいていました。海外の本にも掲載されたことがあるのです獵。なんと、その頃の京大の大型計算機センターには、パンチのあいたテープがあったり
、その後は大きなテープがあったり
、私の研究室のパソコンには18インチだったっけ?ものすごく大きいフロッピィディスクなるものがありました。。。
患者さんの短い検査データも1人1回1枚だったという。。。その後、我が家にもパソコンを入れ、一晩中かかって解析させていました。私も簡単なフォートランやベーシックは勉強したのですが、、、、、(年がばれますね
)
その後、開業して臨床に専念している間に、コンピュータの世界は大変身、ITの進歩はすさまじく、私はすかりIT音痴になってしまいました。
診療所に来てくれているITの助っ人さんの説明を聞いても、単語がわからない。仕組みがわからない。というのも、あまり知らなくてもいいや殮。と今まで思っていたのです。でも、最近それではだめだな。と反省しつつあるところです。ITの進歩にちょっとでもついていける年寄りになれるといいな。と思い直しています。
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矯正治療と心臓手術の共通点と相違点
一昨日のブログを書いてから、矯正治療と心臓手術のどこがいっしょでどこが違うんだろう。。。令と自分で言い出しながら気になっていました。心臓手術のことはよくわかりませんが、(“ブラックジャックはどこにいる“という心臓外科の南淵先生の本は読んだことがありますが。。。)心臓外科はメス一本で勝負!みたいな感じがしますが、矯正はなんとなく装置がいろいろとあるので、患者さんもドクターでさえも、装置をつけさえすれば、治るような気がする。という点が違うかも?と思いました。この装置こそ万能であるかのような講習会が開かれて、広告宣伝合戦のような感じになるのかもしれません。いつも言うように、装置はもちろん大切ですが、それはごく一部でしかありません。骨格の成長発育のコントロールのために、どの装置をどのタイミングで選択するのか、どの装置をどう使って、どう歯を移動すべきなのか。それを考えるドクターの診断力
とそれを扱う技術力
の方がずっと大きなウェイトを占めるのです。そういう意味では、心臓外科と同じだと思います。