Archive for 3月, 2021

矯正治療の難しさを知っている人はほんの一握り

月曜日, 3月 22nd, 2021

くどいようですが、昨日の続きです。

ふと、矯正治療の奥の深さ、難しさを知っているのは、何人いるのだろう?と思いました。

自分だって、大学の矯正学教室に残って2、3年目の頃、押したり引いたりすると歯が動くのがうれしくて、なんだか、もう一人前に矯正治療ができるようになったような気分になっていたのを思い出しました。

その後、5年、10年、、、40年と矯正治療をやってきて、何千という症例を経験させていただいて、「違うぞ、、、そんな甘いもんじゃないぞ!」って、歳を追うごとに思うようになってきたのです。

一般の方はもちろん、マウスピース型矯正装置を製造、販売している人も、それを歯科医院に導入している歯科医師の先生方も、ご存知なくて当然なのです。

矯正治療の本当の難しさを知ってる人は、日本矯正歯科学会の専門医試験を合格した300人弱と、大学の先生方と、他にもがんばっておられる先生方と、、、おそらく日本中で1000人ぐらいなのかもしれません。

1000/1億=10万分の1の人しか知らないから、わからなくても当然なのだということに、改めて気づいたのです。

私がここで、叫んだところでどうにもできないのはわかっているのですが、少しでもわかっていただけるよう叫ぶしかないのかなと思っています。

血液製剤にしても、タバコにしても、日本は健康被害についての対応が後手後手になっているような気がします。

日本が、アイコスという新型タバコの世界シェアの96%を占めた(2016年10月)。ということ、アイコスの販売を禁止しているという国もあるというのに、日本では派手な広告の下にどんどん広まって実験場になっている。ということ、(新型タバコの本当のリスク・田淵貴大より引用)を知っている人は何人いるのでしょう。

奇しくも、インビザラインのことを、「患者さんのご自身の費用負担による世界的大規模人体実験」と言っている知人がいます。わかりやすい表現だなと思いました。

「ブラジルでは、インビザラインは専門医資格を持つものだけが使用して良いと規制がかけられている。」とブラジルの日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)から聞きました。

正しい知識で、適応症例を見極めた上で、正しく使えば問題ないのかもしれませんが、濫用は本当に危険以外の何物でもないと思っています。

マウスピース型矯正治療の被害者がこれ以上増えないことを祈るばかりです。

矯正治療は見栄えをよくするだけのものではないのです。100歳人生において、正しい歯並び・咬み合わせで健康を支え、美しい歯並びで笑顔あふれる毎日を支えるための 大切な医療 であることを、改めてお伝えしたいと思います。

 

 

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マウスピース型(インビザラインなど)矯正治療の恐怖

日曜日, 3月 21st, 2021

最近、マウスピース型矯正治療(インビザラインなど)が急速に普及しているようです。

先週、大阪大学歯学部同窓会の講演会(予防できる不正咬合というタイトルで、乳幼児の間に気をつけることについて3時間話してきました。150枚のスライド準備はたんへんだった!また、そのうちこのお話もブログに書きたいと思っています。)で、一般歯科の後輩から、恐ろしい話を聞かされました。

その先生に通院していた患者さんが、インビザラインを始めるということで、やめろとは言えずに心配していたら、歯をとんでもなく削られて、治療途中もこんなので治るのかとさらに心配していたら、「これで終わりだと言われた。」というのに、きちんと咬み合わせができていない状態だったというのです。「噛んでいないところは、修復で治す」と言われたとのことで、「なんのための矯正かわからない。恐ろしい。今の矯正ってどうなってるんですか?」と私に不満をぶつけてくれました。自分のところへ長年通院してくださっている患者さんの歯が、とんでもないことになったことへの怒りの声だったと思います。

当院に初診相談に訪れたある患者さんからは、かなり小額で矯正治療を始められるというところへ相談に行ったところ、前歯だけを削ると言われたとのこと。心配になって当院に相談にきたというのです。SNSで頻繁に広告が入ってくるそうです。

前歯の幅は、上の犬歯(糸切り歯)から犬歯までの6本の合計と、下の同部の6本の合計の比率が、78%と決まっています。Bolton Indexというお名前の比率です。私たちも、どちらかの歯のサイズが大きすぎるか小さすぎるかで、うまく咬み合わせが作れない時には、およそ78%になるように、大きすぎる方を削ることはありますが、ガタガタをとるためだけに削ることはほとんどありません。

幅の小さくなった歯が並んだ状態を想像してみてください。きれいなはずがありません。では、削らずに並べるとどうなるか?円周が長くなるので、出っ歯になり咬めなくなります。

矯正って、そんなに単純なものではないのです。私も矯正を初めて40年を超えましたが、それでも、検査結果(模型や顔の写真、レントゲン写真やその分析結果(セファロ分析と言います))などを前に診断し、どう治していくのが最も良いゴールに早く到達できるか、また考えて、1症例に1時間以上悩むこともあります。休診日の木曜と日曜は、患者さんの診断・治療方針の決定のために、診療室にほとんど一日中籠もっています。行き詰まった時は、旦那ちゃんや娘に意見を求めて、頭をほぐしながら考えることもあります。

歯並びだけじゃなくて、虫歯のなりやすさ、歯周組織、顎関節、口唇や舌の癖などの問題についても、検討しなければいけません。

2種類以上の方針をたてておき、次回のお約束で、患者さんのご希望を入れながら、最終方針を決定するときもあります。

それほど、矯正治療は奥が深く難しいということを知っていただきたいと思います。マウスピース型矯正治療を手掛ける先生の多くは、先生ご自身もその難しさをご存知ないまま、業者の上手い言葉についつられて始められているのではないかと心配しています。

群馬大学の肝臓の手術で何人もの失敗例が出た時、新聞記事に掲載されていた文章です。

一部の例外を除いて手術というのは、極端にいえば、医師免許があれば誰がやってもいいことになっている。経験を重ねてから実施するというプロセスを踏まないまま、難しい手術を実行してしまったのが群馬大の例で、これは大きな間違いだ。」

これを、矯正歯科に言い換えると

矯正治療は歯科医師免許があれば、誰がやってもいいことになっている。経験を重ねてから実施するというプロセスを踏まないまま、矯正治療を実行してしまったのが、大きな間違いだ。」

となります。

患者さんも先生も泣いているという状況にならないかと本当に心配しています。

私のような日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)がこういう発信をすると、とかく、「利益誘導だ。(自分のところに、患者さんを誘導するために言っている。)」と言われがちで、なかなか言いにくいのですが、あまりに心配なことが続いたので書くことにしました。

日本矯正歯科学会も、日本臨床矯正歯科医会も、その危険性をHPで掲載しています。検索してみてください。

矯正治療は命に関わることはないので、どうしても美容系に考えられがちですが、100歳人生と言われている今日、きれいに並んでいるだけの歯並びではなく、しっかり咬めて、安定する歯並び、100歳までの全身の健康を支えていける歯並びが求めらているのです。人間、食べることで命を繋いでいくのです。

「儲かる歯科医院のビジネス戦略をアドバイスします。」というような業者のダイレクトメールがうちにも入ってきます。中の文章が見えるように透明な袋に入ってくるので、ふと目が止まったのですが、「以前は、『見えない矯正治療(表現は違っていたかもしれません)』という検索件数が増加していたが、現在は『見えない矯正治療&後悔』の検索件数が増加しています。だから、うちのセミナーへ、、、」みたいなことが書いてありました。そこで、『見えない矯正治療&後悔』で検索してみると、なんと、広告サイトが次々と出てきて、「後悔しないように、是非、当院へ、、、」のような文章が飛び込んできました。恐怖を感じました。

日本臨床矯正歯科医会の”なんでも相談コーナー”には、マウスピース型矯正治療に関するお悩み相談が急増しています。

矯正治療を開始される際には、慎重に判断されることを、強くお勧めします。

長文にお付き合いくださりありがとうございました。私の日頃の心配が堰を切って流れ出してしまいました。ご理解いただけましたら幸いです。

 

 

 

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