最近、矯正治療のトラブルが増えていることが問題になっているようです。
その原因について、いろいろと考えていることを順番にお話ししてみたいと思います。
まずは、”どれひとつとして同じ症例はない。”ということをお話ししたいと思います。
インフルエンザがどうかの診断は、鼻に細い綿棒を突っ込んで、それを検査キットに入れて、陽性か陰性かをチェックします。陽性と出れば、イナベルとか、タミフルとか選択肢は少しあるようですが、お薬を処方します。その方法は、ほぼ統一化されているといっていいでしょう。どの医院に行っても、検査。診断、治療方針がほとんど同じなのだと思います。
しかし、矯正治療は異なります。
一人一人状態は異なるのです。
見た目には出っ歯に見えても、下あごが大きい場合もありますし、受け口の患者さんの前歯の様子は同じでも、骨格はさまざまで、簡単に治る症例もあれば、成長発育期に下あごが大きく伸びてくる症例もあります。
先天性欠如歯という歯の数の不足や、埋伏歯という歯が生えてこない状態などを伴っている場合もあります。
単なる八重歯に見えても、ただ歯のサイズが大きいだけでなく、上あごが小さすぎるという骨格性の問題を伴っていたり、それが舌の位置に原因するものだったり、それはそれは複雑です。
それを、矯正歯科医は、問診票、歯型(咬合器という機器につけて嚙み込みの際に顎のずれかないかのチェックもします)、レントゲン写真・口腔筋の機能検査(飲み込み時の舌や口唇の動き、安静時での様子を調べます)などの結果を診て、診断、治療方針の決定をしていきます。
レントゲン写真には、*歯の全体の様子をとったものと、部分を詳しくとったもの、*顔を前からと横からとったもの:セファロと言います。横顔の写真はトレースをして、コンピューターで分析して、平均値を比較してどの部分がどうずれているのか、どういう特徴があるのかを調べます。*顎関節の様子を診るもの *3次元的な歯の位置関係を調べるためのCTがあります。
診断の際には、難易度を見極める力が必要とされます。また、治療方針の立案には、いかに患者さんの負担少なく、確実に治療できるかを考える力も必要です。
一人一人の症例について、私たちは、お休みの日に頭をひねって考えています。一人1時間以上考えていることもあります。
いくつか治療の選択肢をあげて、その長所・短所を列挙して、患者さんといっしょに相談して決定することもあります。
その際に必要とされるのが情報量です。
情報には、いわゆる教科書や文献から得られるお勉強的なものと、経験から得たものがあります。
私たちは日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)は、通常は、大学の矯正学の医局で教科書や文献を読みながら、先輩の下で、お手伝いをしながら経験を積みます。
独立してからも、雑誌の購読やネットで最新の情報を収集しながら、1症例1症例の積み重ねで経験を増やしていきます。
子どもたちの場合、自分の治療結果が出るのに10年以上かかる場合もあります。
矯正医が一人前になるのには、どうしても時間がかかるのです。
新患数をHPに掲載されている医院があるようですが、私にはその理由がわかりません。新患数よりも、治療を終了した症例数が重要だと私は思います。それも、一人ひとりの医師の経験数が大切であって、病院のトータルの数は、その医師の診断能力・技量には関係ないと私には思えるのです。
”矯正治療は奥が深く、難しい”
私は、矯正治療という分野が大好きです。難しくてたいへんだけど、毎日が新鮮で、緊張があるからです。
命の存続とは遠い存在だけど、その人の生き方を前向きにするお手伝いができる医療だからです。
トラブルが減って、”矯正治療を受けて、本当に良かった”って言ってくださる方が、世の中にどんどん増えることを願っています